新肛門手術(新肛門再建術)の流れ
新肛門手術には、直腸癌の手術と同時に行う新肛門手術と、既にストーマをつけられている方(オストメイト)に対しておこなう新肛門手術との2種類の手術があります。以下では、これから直腸癌の手術を受けられる方の手術を説明します。
直腸癌を切除する手術は、従来の方法に準じて行います。直腸癌の切除があらかた終わったところで、残った大腸の一部を使い、直腸のリザーバーとしての働き(便をためる働き)をさせるために、袋のような結腸パウチを作ります。
次に臀部の大殿筋の一部を使い、新しい括約筋を作ります。そのときに、本来の括約筋を支配していた陰部神経を大殿筋の神経につなぎ代え、陰部神経支配の新しい括約筋を作成します。この括約筋が、陰部神経の作用で自然な肛門の働きを代行します。
なお、この新肛門手術(新肛門再建術)は、保健医療が想定していなかった治療法ですので、現在、手術代金は、保健点数表では決められておりません。そのため、従来ある手術法(直腸がんの手術と便失禁に対する手術)の代金として算定し、保健医療の範囲内で医療を行っています。
新肛門手術法の説明
新肛門手術方法の以下の説明は、現状臨床応用を行っているクリニックと比べるとクラシカルな方法と呼ばざるを得ませんが、基本原型です。
近年では、内括約筋の形成やそのほか細かな工夫が随所にこめられるようになりました。また、大殿筋以外に薄筋を使うこともあります。
直腸癌に対する切除は、新肛門再建の有無にかかわらず、根治性を追及して同様に行います。切除術があらかた終了したところで、新肛門再建の準備を始めます。
まずは、結腸の端が、緊張なく、肛門部まで引き降ろせるように、十分に結腸を遊離します。そして、直腸のリザーバー機能(便をためる働き)を再建するために、小型の結腸嚢(袋)を作成します。
新しい括約筋は、大殿筋という、いわばお尻のほほの筋肉の一部を使用して作ります。現在では、薄筋を使って、この陰部神経を縫合した新肛門を作成することも行っていますが、今回は大殿筋を使った術式を紹介します。
大殿筋を使った術式
大殿筋は、血管支配により、上殿動脈によって養われる上部と、下殿動脈によって養われる下部とに分けられます。大殿筋はその全体が損なわれれば、歩行に障害が出ますが、上部を温存し下部しか使わないために、歩行障害は出現しません。
また、大殿筋の神経支配は、血管の支配の場合と異なり、全体が同じ下殿神経で支配されています。ですから、大殿筋の下部を使って新しい括約筋を作る場合は、上部の機能を守るために、下殿神経の上部への枝を残す必要があります。
そして、下殿神経の末梢側断端と、陰部神経の中枢断端を縫合しますが、この神経縫合は、顕微鏡を使って行います。殿部まで引き出してきた結腸嚢の排出脚の周囲に、陰部神経を縫合した大殿筋下部で新括約筋を作ります。(ここも実際にはいくつかの方法があり、いくつかのコツがあります)
直腸のリザーバー機能(便をためる働き)のための結腸嚢と、肛門括約筋の機能をつかさどる陰部神経がつながれた新括約筋とによって、骨盤底が形成されています。なお、現在では大殿筋に代えて薄筋を使用して手術をすることも増えました。薄筋の方が手術後の患者さんの負担が少ないからです。