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肛門の構造
肛門はまず歯状線を境に二分されます。肛門の縁から1.5~2.0cmほど奥にある歯状線は直腸と肛門の境目であり、この線より奥は痛みを感じません。
そのため歯状線より奥にできる内痔核も痛みがなく、大抵の場合は出血してはじめて罹患したことに気づきます。
歯状線はその名のとおり歯のような凹凸があり、その凹部分は肛門陰窩と呼ばれています。
肛門陰窩は6個から11個ほどあり、深さは1mmほどです。
便が下痢の状態だとこの肛門陰窩に詰まり、細菌が溜まって炎症を起こします。炎症によって膿が出て、さらに進行すると穴が深くなりやがて肛門の外側とつながってしまいます。これが痔瘻ですので、患った際はすみやかに病院へ向かいましょう。
肛門はこれらのほかにも、肛門を閉じる役割を担っている括約筋、または網目状に広がりクッションになっている血管など、さまざまなもので構成されています。
痔とは
肛門やその周辺にできる疾患の総称が「痔」です。
間は直立二足歩行をするため、四足歩行の動物より直腸や肛門へ大きな圧力がかかっています。
その状態の肛門がうっ血したり、または下痢や便秘が原因で細菌が入ったりすることで痔になります。
日本人の3人に1人は痔です
3人に1人は患っていると言われている日本は、世界的に見ても痔の患者が非常に多い国です。
痔は大きく分けて痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻の3種類がありますが、いずれのものも日頃の生活習慣が密接に関わっています。
どのような生活習慣が,,,どういった状態の肛門が痔の原因?
今回はどのような習慣が痔をもたらしているか、どういった状態の肛門は痔になりやすいかについて紹介します。
痔は生活習慣と結びついている
食生活が乱れていると痔のリスクが高くなります。
たとえば野菜をあまり摂っておらず、肉ばかり食べている方は痔になりやすいです。
野菜が不足すると腸内環境を整える食物繊維も足りなくなり、結果として便が硬くなります。
硬くなった便は便秘を誘発するだけでなく、排出時に肛門を傷付け、そこから切れ痔が起こってしまうことが少なくありません。
またお酒が好きで日頃から飲んでいる方、朝食を摂らないことが多い方も痔になりやすいです。
トイレへ行く頻度も痔の発生と密接に関係しています。
外出時にトイレへ行くことを面倒くさがり、ついつい我慢してしまう方は痔になりやすいです。
また腸内の便をすべて出してしまおうと強くいきむ方も注意が必要です。
長時間いきんでいると肛門がうっ血し、肛門の状態が悪化します。
長時間籠もって便を出し切るのではなく、トイレに入ったら長くても3分で出るように心がけましょう。
女性の場合、妊娠が痔につながってしまうこともあります。
赤ちゃんの成長に合わせて大きくなった子宮が直腸や肛門を圧迫し、トイレで強くいきんでいるときと同じようにうっ血を起こしてしまうケースがあるからです。
そのため妊婦の方が患う痔のうち9割以上が痔核だと言われています。
どのような肛門が痔になるのでしょうか?
ほかの病気にも共通して言えることですが、痔の治療は早期に取りかかるほど治りが早くなります。
では自分の肛門が痔へと向かっているかどうかはどのように判断すれば良いでしょうか。
前述のとおり痔には大きく3種類があり、それぞれで初期症状も異なります。
痔核の場合、排便時に出血していることが多いです。
もし出した便や排泄後の肛門に血が付着していたら痔核を疑うと良いでしょう。
また残便感、便を出した後も体の中に残っているような感覚がある方は痔核を患っている可能性が高いです。
そのほかにも、手で肛門を触るといぼのようなものがある場合も痔核が考えられます。
便を出し、肛門を拭いたときにトイレットペーパーへ血が付いたら裂肛に注意しましょう。
排便時に肛門が切れること自体は誰にもあることですが、稀に傷が悪化して手術が必要になります。
また裂肛した肛門は狭くなるため、それに合わせて便も細くなってしまうのです。
前よりも便が細くなった方は裂肛を疑うと良いでしょう。
痔瘻とは肛門周辺に穴ができ、直腸とつながってしまったタイプの痔です。
多くの場合、下痢によって肛門の組織に細菌が入り込み、そこが化膿して肛門周囲膿瘍を発症、さらにそれが進行しトンネルができると痔瘻になります。
そのためよくお腹を下している方は気を付けましょう。
痔の種類
前述でもお話しましたが、、、いぼ痔(痔核)・痔瘻・切れ痔(裂肛)の3種類を要約してみました。
男女における痔の違い
痔は性別に限らず誰にも起こり得る病気ですが、どのタイプの痔を患うかは男性と女性によって異なります。
便秘になりやすく、便が硬くなりがちな女性は排便時に肛門を傷付けてしまう可能性が高いです。
そのため男性よりも裂肛になりやすいです。
また妊娠すると大きくなった子宮が肛門を圧迫し、それによるうっ血が原因で痔核を患いやすくなります。
一方男性は痔瘻になりやすく、女性は患者全体の5%に留まっているのに対し男性は19%と4倍近いです。
なお性差だけでなく、腸の調子やストレスの有無、または生活スタイルによっても痔のなりやすさは変化しますので、痔から少しでも遠ざかりたい方は規則正しい生活を心がけましょう。
痔と間違えやすい病気にもさまざまなものがある
肛門やその周辺は非常にデリケートであるため、痔以外にもさまざまな病気が起こり得ます。
中には痔と症状が似ているものもあり、誤って判断してしまうケースも少なくありません。
痔と間違い治療が遅れるようなことを防ぐためには、それぞれの病気の特徴をしっかり把握しておくことが重要です。
今回は直腸脱や毛巣瘻など、痔とよく似た病気について解説します。
肛門掻痒症
肛門掻痒症とは肛門やその周辺がかゆくなる病気です。
肛門にできた傷や拭き残しの便などが原因で発症し、かゆみ以外にも肛門のべとつきや下着の汚れなどを訴える方もいらっしゃいます。
肛門掻痒症の症状と同じ肛門のかゆみは痔だけでなく糖尿病や黄疸でも起こりますので、気になる方は一度病院へ行くと良いでしょう。
膿皮症(のうひしょう)
若年層の男性が患いやすい膿皮症はお尻や太ももが化膿する病気です。
はじめにかゆみが表れ、そして痛みと共に膿が出ます。
膿が出てくる穴が瘻管と似ているため痔瘻と間違える方が多いですが、膿皮症の穴は浅いためトンネルにはなっていません。
抗生物質では治せず、皮膚を切除する手術が必要です。
なお膿皮症がもととなり、痔瘻やがんを併発してしまうケースも発見されています。
直腸脱
排便時に強くいきみすぎると直腸が裏返り、肛門から出る直腸脱を患ってしまうこともあります。
また加齢により肛門括約筋が緩んだことで発生することもあり、とくに高齢女性はこのケースが多いです。
なお脱出した痔核との違いは、静脈叢が膨らんでいるかどうかです。
どれだけ腸が脱出するかによって完全直腸脱と不完全直腸脱に分けられます。
完全直腸脱は重度になると10cm以上飛び出ることもあります。
排便時の強いいきみは直腸脱だけでなく痔核の原因にもなるので、力を入れすぎないよう日頃から注意しましょう。
毛巣瘻(もうそうろう)
体毛が濃い男性の場合、毛巣瘻を患ってしまうこともあります。
これは肛門と尾骨の間に袋状のしこりができ、その中に毛が多数詰まってしまう病気です。
毛巣瘻は毛髪洞やジープ病といった別名を持っています。
ジープを運転する米軍兵士が多くこの病気を発症していることがジープ病の由来です。
毛巣瘻が腫れて化膿すると膿を出すため、痔瘻と間違われることがあります。
いずれにせよ治療が必要なので、肛門部に膿が生じた際は早めに医者のもとへ向かいましょう。
大腸ポリープ
ポリープは喉や鼻にできるものというイメージが強いですが、実は全身どこの粘膜にも発生し得ます。
大腸にもポリープはでき、出血を伴うことからそれを痔と間違えてしまうケースは少なくありません。
一口に大腸ポリープと言えど、その種類はさまざまあります。
まず腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープに二分され、さらに腫瘍性ポリープは腺腫とがんの2種類、非腫瘍性ポリープは過形成性ポリープ・過誤腫性ポリープ・炎症ポリープの3種類に分別されます。
これらのうちよく発生するのは、腺腫と過形成性ポリープです。
ポリープが見つかった場合は原則的に切除しますが、その際に開腹手術を行うことは少なく、多くは内視鏡を使った軽度の手術です。
初期に発見されたほうが手術も容易になるので、定期的に検診を受けましょう。
大腸がん
大腸がんの多くが腫瘍性ポリープから発展したものです。
ほかのがんよりも進行が遅く、また症状も大人しい、さらにほかの場所に転移したとしても切除が可能である治りやすいがんであるため、見つかったとしても冷静に対処しましょう。
肺がんや胃がんと並び、大腸がんは日本人が患いやすい病気として知られています。
とくに近年増加傾向にあり、これは日本人の食生活が欧米化しつつあることが原因の1つだと言われています。
実際に高脂肪分を日本人より多く摂っている欧米人は大腸がんの割合が大きいです。
大腸がんは血便や便が細くなるなど、痔にも見られる症状がもとになり発見されることが多いです。
しかしそれらの自覚症状は大腸がんが進行してから表れるものであるため、何も症状がない時期から定期的に検診を受けておくことをオススメします。
痔核(じかく)
いぼ痔とも呼ばれる、肛門の一部分がうっ血して腫れ、いぼ状になるタイプの痔が痔核です。
痔核を患うと排便時に痛みを感じ、また血も出てしまいます。
なお痔核は、発生する場所によって内痔核と外痔核に分けることが可能です。
痔核の治療方法をご覧ください。
裂肛(れっこう)
裂肛とはその名のとおり、肛門にできた傷のことです。
切れ痔や裂け痔とも呼ばれており、硬い便の通過によって起こります。
そのため便秘になりやすく、便も硬くなりやすい女性が患いやすいです。
裂肛は肛門の外側に起こるため、お尻を拭くとペーパーに鮮血が付きます。
切れ痔(裂肛)の治療方法をご覧ください。
痔瘻(じろう)
肛門内部には「肛門陰窩」と呼ばれる穴があり、そこに細菌が入り込んで膿が溜まると「肛門周囲膿瘍」という状態になります。
これが進行し、肛門の外側までトンネルがつながってしまったのが痔瘻です。
穴痔とも呼ばれるこの痔は38度から39度の熱を起こさせることもあります。
痔瘻(じろう)の治療方法をご覧ください。