「長年、人工肛門(ストーマ)をつけてきましたが、新肛門手術は可能なのでしょうか」
このような疑問をお持ちの方は多いと思います。
しかし、直腸癌手術のときに新肛門の手術を同時に行う、新肛門手術と、何年も前に直腸癌手術をされて人工肛門になっている方に、新たに新肛門を作成するのとは、まったく次元の異なる手術なのです。
ストーマをつけてきた方へ行う新肛門手術の問題点
何年も前から人工肛門になっている方に新肛門を作るためには、乗り越えなければならない5つのハードルがあります。
1. 物理的な問題
もう1度お尻に新肛門を作成するためには、腸が肛門まで届くかどうかということ。
2. 再手術における癒着の問題
前回の直腸癌手術で、骨盤腔は激しい癒着に陥っています。癒着を剥離していかなければならないという手術遂行上の困難さ。
3.手術の難易度の高さ
何年も前に切断された陰部神経を、瘢痕組織の中で探し出す手術の困難さが予想されます。
4. 神経吻合が可能かどうかという問題
何年も前に切断された神経が生きているかどうか。
5. 新肛門の機能と満足度に関する問題
長年、人工肛門(ストーマ)に慣れ親しんできた方にとって、その人工肛門よりも新肛門が上回るものであるかどうか。
①の問題に関しては、いろいろな方法をとることにより恒常的に可能です。
②の問題についても、大変で困難ではありますが、乗り越えられない障壁ではありません。
ここ数年、他が嫌がる腹膜炎の再手術が必要な患者さんを積極的に受け入れてきたのは、実は、新肛門手術を念頭においていたためでもありました。
③の問題も慣れれば、再手術創でも神経を見つけ出すことは可能です。
④は、複数人の患者さんで神経の再生が確認された例があります。その後その方々は人工肛門がなくなり新肛門を使っています。
新肛門の使い勝手がいいかどうかは、今後、末永く評価していくことになります。
⑤の問題の解答は時間がかかるところです。この問題はとてもナイーブな問題で、人工肛門と新肛門に対する考え方が一人一人異なるものですから、永遠に一言ではいえないものであるかも知れません。
しかし、長年人工肛門をつけてきた患者さんたちは、直腸癌の手術から時間が経っている分だけ、癌の再発の可能性は低いと言えるでしょう。
術後の感染(もっとも防ぐべき合併症)が少なくなるわけですから、その意味では、より良い新肛門手術の適応ということが出来ます。手術が1回余計に増えてしまうわけですから、出来れば、最初の直腸癌の手術のときから、新肛門の手術を計画して行ったほうが良いと思います。
ストーマをなくすために
直腸癌の手術から年余が経過した方への新肛門の手術は、特に希望の強い方にのみ行われているのが実情です。もっとも、機能の再建手術は常にその宿命にあります。
現在でも、それを承知で手術を受けていただいている段階です。手術術式的にも、生理学的にも、この手術は可能でしたし、ある意味、完成された術式ではあります。あとは、患者さんの満足度を満たすものであるかどうかという、最も困難で、最も大切な問題だけです。これは医療全般について言えることでもあります。
直腸癌で肛門を失い人工肛門になっている方は、いわば「医原的な肛門機能不全」であり、疾患と見なすことも出来るわけですから、当然、保険が適応されてしかるべきであると考えています。実際、既存の手術の組み合わせということで、保険の適応が可能です。