直腸癌を治しストーマをなくす

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直腸癌を治しストーマをなくす

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直腸癌でも人工肛門(ストーマ)にならない手術方法

肛門として自然な働きをする「新しい肛門を再生する手術(新肛門手術)」という手術法があります。

新肛門手術は、今まで行なわれていた手術法と比べても、切除する範囲に違いがありません。

直腸癌の治癒を目指した手術を行ないます。

その上で、自然な肛門の機能をつかさどるのに重要な役割の陰部神経を縫合した骨格筋によって、新しく肛門括約筋を作り、肛門のあった部位に新たに肛門を作ります。

2002年までに新肛門手術をした19名と、同時期に肛門側から切除し肛門を残した19名とを比較した臨床結果があります。

新肛門手術には切除部位近くの再発は1例もなかったのに対し、肛門を残した19例中5例で局所再発が見られました。これは、統計学的にも意味のある差です。
(2003年6月6日札幌で開催された日本外科学会総会で発表)

大腸癌・直腸癌の治療法

大腸癌や直腸癌を治すには、癌(ガン)をふくめて周囲の組織を一緒に切除する必要があります。大腸癌細胞・直腸癌細胞が目に見えない形で、周りに散らばっていることが、研究で明らかになっているからです。つまり、治すためには、癌(ガン)だけを切り取ることはできません。

また、大腸の中でも直腸の場合は少し話が複雑になります。直腸のすぐ側には肛門があるので、肛門まで切除せざるを得ない場合には、人工肛門(ストーマ)が必要になってしまうというわけです。直腸癌の切除に関しては、医師も患者もよく考えて手術法を決定しなければいけません。
注:大腸とは、結腸と直腸をあわせて言う呼び名です。結腸はcolon、直腸はrectumで、大腸に見合う英語の専門用語はありません。

人工肛門(ストーマ)とは

では、人工肛門(ストーマ)と呼ばれるものは何でしょうか。それは、大腸の切離断端が腹壁に口を開けた、腸の開口部のことです。つまり、腸の一部が腹部に露出し、そこの孔から便が出てくるものを「人工肛門」と呼んでいます。
しかし、人工肛門には肛門の働きがありません。便が出るということでは、肛門に似ているのかもしれませんが、便はただただ意識せずに出てくるだけです。人工肛門と呼ばずに、単に「ストーマ」と呼ばれることが多いのもこのためです。

人工肛門の方の多くは、ストーマにビニール袋をつけて便をためます。近年は、装具(袋や皮膚保護剤)の発達が目覚しく、ストーマをつけた人々の生活は格段に改善されました。

それでもやはり、肛門を失うのは辛いことです。そのため、直腸癌の手術方法は、術後の排便機能が悪くなる危険をおかしても、出来る限り肛門を残す方向で発達してきました。出来るだけ肛門の近くで腸を吻合し、人工肛門にならないように、手術術式と手術器械が考えられてきたのです。

しかし、医療技術の発達にも関わらず、肛門を切除しなければならない患者さんがいることは事実です。直腸癌になってしまった場合、手術によってお尻を失う可能性は高いでしょう。

新しい肛門を再生する手術(新肛門手術)について

新肛門手術は、手術によって失った肛門をもう1度作る手術です。

手術法に名前をつけるのは、開発者の特権ですが、実は今も、この手術法には決定的な名前がありません。基礎研究が始まった1990年代半ばには、「機能的会陰部人工肛門(functional perineal colostomy)」と呼んで発表していました。

その後、手術内容は異なるのですが、似た名前の手術法があったため、それと区別する必要から、「生理的直腸肛門再建術(physiological anorectal reconstruction)」と呼び、専門誌に発表しました。

正確には、陰部神経を縫合して新しく作った肛門なので、近年では、手術方法を正しく表すためにその英語訳のpudendal-nerve-anastomosed-neo-anusの頭文字をとって、PNANAと呼んだり、neo-anus with a pudendal nerve anastomosisの頭文字をとってNAPNAと呼んだりしています。

この手術はそれ以外の工夫も併用している手術法であるため、正確には、名は体を表す、という風に、なっていないのが現状です。

直腸癌の生存率

直腸癌は、癌(ガン)の中でも治りやすい癌です。

もし、直腸癌が決して治らないものであったのなら、肛門を切除してまで、なぜ、大きい手術をする必要があるのでしょうか。 治りやすい癌だからこそ、必要十分のしっかりとした手術を受けることが大事なのです。

再発を防ぎ、直腸癌を治療する

治りやすい癌(ガン)だからこそ、治すための手術を、おろそかにしてはいけません。人工肛門が嫌だからといって、再発率を上昇させるような手術(データに基づかない小さな切除範囲の手術)を選ぶ外科医がいるのだとしたら、あまり信用しない方がよいでしょう。

患者さんの人工肛門を恐れる気持ちに合わせた手術をするだけのことで、本当に希望している治療とは異なるはずです。希望する治療とは、「癌をしっかり治して、かつ、人工肛門も避けたい」というものであるはずです。

新肛門手術は患者さんの望みをかなえられる手術となっていくでしょう。

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